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東京高等裁判所 平成5年(行コ)144号 判決 1994年7月19日

東京都東大和市芋窪二丁目一九一五番地の一四

控訴人

柴田松年

右訴訟代理人弁護士

小田修司

今村敬二

東京都立川市高松町二丁目二六番一二号

被控訴人

立川税務署長 飯田廣行

右指定代理人

小池晴彦

時田敏彦

石津佶延

長谷川貢一

内野茂

右当事者間の所得税更正処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成元年七月三一日付でした控訴人の昭和六一年分の所得税についての更正のうち、総所得金額一五一万五〇〇〇円及び分離短期譲渡所得の金額八五七万八二三八円(納付すべき税額三三九万五九〇〇円)を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次に記載するほかは原判決と同じである。

(控訴人の主張)

法三七条四項かっこ書きは、やむを得ない事情がある場合には、当該翌年の一二月三一日後二年以内において税務署長が認定した日までの期間内に買換資産を取得することを認めているのであるから、納税者の責めに帰さない事由があれば右二年以内の期間であれば取得期間の再延長を認めても何ら不都合はないはずである。実務上の取扱いも、右二年の期間内での再延長を認めている。

また、法は、税務署長が右二年以内において取得期限となる日を認定すべきことを定めているのみであるから、税務署長は、申請人が取得予定日として記載した日以前の日を認定しなければならないものではなく、申請人の記載した取得予定日には拘束されずに、取得に要すると認められる合理的な日を認定すべきものである。そして、税務署長が法三七条四項かっこ書きの申請書に対し、承認または不承認の行為をしないときは、税務署長の認定した日が存在しないことになるのであるから、法三七条四項かっこ書きが認める当該翌年の一二月三一日から二年間は買換えが認められるものと解すべきである。

第三判断

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に記載するほかは原判決の説示のとおりである。

法三七条四項の規定は、特定の事業用資産の買換えの場合における譲渡所得の課税の特例に関する規定の適用を受けるための買換資産の取得期限について、同条一項が「当該譲渡の日の属する年の一二月三一日まで」と定めているのを緩和して、税務署長の承認を受けることを条件にこれを「当該譲渡の属する年の翌年中」とし、更にその特例として、「政令で定めるやむを得ない事情があるため当該翌年中に資産を取得することが困難である場合」に税務署長の承認を受けたときに限り、「当該翌年の一二月三一日後二年以内において当該税務署長が認定した日」まで延長することを認めている。このように、同条四項かっこ書きによる期間の延長は例外的、補完的に認められたものであり、かつ、具体的事案における期限の設定を税務署長の審査、認定に係らせていることからすると、同条四項かっこ書きの承認申請は当該翌年の一二月三一日までに同日までに生じた事情に基づいてなすべきものであるとともに、この申請により税務署長が具体的事情を審査して当該翌年の一二月三一日後二年以内において認定した日は、例外的な延長が認められる最終の期限であり、右申請後に生じた事情により再度の延長を求めたり、あるいは右二年の期間内であればこれを何回にも分けてこま切れ的に延長を求めたりすることまでが許されるものではないと解するのが相当である。控訴人は、課税実務では右二年の期間内で再延長を認めていると主張するが、現在の課税実務においてそのように取り扱われているのが一般的であると認めるべき資料はない。

ところで、本件においては、控訴人は、昭和六二年三月一六日所轄税務署長に対し、本件長期譲渡物件の譲渡をした日の属する年分の確定申告書に添付して、買換資産の取得予定日を昭和六二年五月二〇日と記載した法三七条四項の買換え承認申請書(乙第六号証)を提出しており、これが受理されているところ(弁論の全趣旨によると右受理を税務署長の承認とするのが実務の取扱いであると認められる。)、控訴人は、昭和六二年五月二〇日に、建物、機械につき売主その他関係者との交渉が未決着で長引き、先に取得予定日として申請した同日までに取得することが困難であることを理由として、取得期限を更に一年延長することを求める取得指定期間の延期申請書(乙第七号証)を提出している。右延期申請書の提出は、法三七条四項かっこ書きの承認申請に当たるものであり、その記載からして昭和六三年五月二〇日までの延期を求める趣旨と解されるところ、これに対して税務署長が右申請を是認しない旨の対応をしたと認められる証拠はないので、右申請をそのまま承認し控訴人の求めたとおりの日を取得期限と認定したものとみるべきである。したがって、法三七条四項かっこ書きによる期間は昭和六三年五月二〇日までとなる。

そして、その後、控訴人は、昭和六三年五月一七日、取得予定年月日を昭和六四年五月二〇日とする取得指定期間の再延期申請書(乙第八号証)を提出し、昭和六三年一二月に仙台物件を取得しているが、前記のとおり、控訴人が買換えの特例を受けるために買換資産を取得しなければならない最終の期限は昭和六三年五月二〇日までであり、これを更に延長することは法律上許されていないと解されるから、控訴人は仙台物件について法三七条の買換えの特例の適用を受けることはできないものである。

なお、控訴人は、税務署長が控訴人の右再延期申請に対して不受理又は却下の処分をしなかったので、控訴人は買換手続を進行させ仙台物件を取得したのであるから、買換特例の適用を認めないことは信義則に違反する旨主張するが、乙第一四号証によれば、税務署長は、右再延期申請書が提出されて間もない昭和六三年六月上旬ころ期間の再延長は認められない旨控訴人に説明していることが認められるので、控訴人の右主張は採用することができない。

二  よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 山崎潮 裁判官 杉山正士)

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